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飾らない金持ちTシャツ

 暗い会場の巨大モニターに、「5」と書かれたエレベーター前でゴリラがウロウロしているライブ映像が映し出された瞬間、会場は歓喜と落胆の声、そしてやや気の抜けた笑い声に包まれた。
「A gorilla is in the fifth floor. 」
 会場に明かりがつくと、そこに、いい背広をラフに着こなした金持ち達が百人単位で不気味に浮かび上がった。全員、また5階かよ、という顔をしている。
 各テーブルの上には、先ほど紹介されて盛り上がっていた「まっすぐの万札の上に10円玉を乗せる方法」の残骸がゴミのように転がっている。後で、選りすぐりの白人給仕たちがチップ代わりにポケットに突っ込んでいくだろう。
「お金の計算タイム!!」
 と元気な声がアナウンスされ、先ほどベットされた札束があちらからそちら、こちらからあちらへ空中を飛び交った。6億損した金持ち、70億得した金持ち、100億損した金持ち。たくさんの金持ちの暇がまたつぶれ、夜が更けていく。
「ではまた、30分間のベットタイムになります」
 その言葉を聞くや否や、豪華なイスに漫画喫茶状態でリラックスし始める金持ち達。引き続き、貸し切った新宿伊勢丹に放ったゴリラが30分後いったい何階にいるのかあれやこれやと議論を交わし始めた。
「ゴリラもそろそろエスカレーターに抵抗がなくなる頃だよ。すごく賢い生き物だから」「ゴリラは動物、鼻がいい。地下のローストビーフのにおいにつられて3階ぐらいまで下っているに違いない」「いや、やはりあのまま5階にいるのでは……」「そうなるともう4連続だよ」
 そのとき、
「コラ! 誰ガ入ッテイイッテ言ッタ!!」
 と黒人警備システムの声がとどろいた。
 黒人警備システムとは、金のネックレスを賞品に「よーいドン!」で走った黒人を上から9人集めて高校野球を2年やらせ、夏の甲子園にエントリーして断わられた悔しさで金持ちの安全を守らせたら世界一の頑張り屋さん黒人警備集団である。
 見ると、クッパ城並みに頑丈な出入り口に、乞食みたいな母子が立っていた。どこで買うのか貰うのか、もしくは道で拾うのか、乞食はたいてい落ち着いた色のマントみたいなものをはおっているが、この親子も例外ではなかった。
「くっせーーーーーー!!!!」
 一番遠くにいた、一代で富を築き上げたタイプの金持ちが叫んだ。
 団結とは、コミュニティ外に敵を認めた時に起こる感情に過ぎない。金持ちたちが「乞食コール」を始めるのに時間はかからなかった。

あ そーれ
こーじーき こーじーき
かーえーれ かーえーれ
ワ~~~~~~~~~~

 そんな中、子どもが一歩前に出た。薄汚れたくせして、なかなか精悍な顔つきをしている。栄養が行き届いていないせいか小さな身長で、小学何年生か見当もつかない。
「この落ち着いた色のマントは、JR武蔵野線新三郷駅で拾いました。僕たちにもゴリラが何階にいるか賭けさせてください」
 子供らしい高い声に、金持ちのコールがぴたりと止んだ。聞いてもいないのに、ちょうど聞きたかったマントのことを喋ったので金持ちたちはかなり驚いたが、それを隠してグラスを傾けた。
 そんな中、一人の若いオールバックの金持ちが親子の前に歩み出た。埃のつきにくい縦縞のスーツにロレックスがチラチラのぞく「25歳 馬主」の体現者である。目は二重だ。
「マントのこと教えてくれてありがとう。君たちが貧乏から見事にひねり出した、小銭の音がしそうなチャレンジ精神は認めよう。金持ちはやけに人に拍手を贈るが、今日も一発そうしたいと思う」
 若いオールバックの金持ちがゆっくりした拍手を始めると、すぐに会場は金持ちたちの大きな拍手に包まれた。そしてまた静かになった。
「しかし、残念ながらここは君達が来るような場所ではないんだ。我々のように、雑誌で万札の風呂に浸かっている人間の、正直リアルに何万倍もの稼ぎを得た真の億万長者が、日々の戯れに金をじゃぶじゃぶ使い捨てしにくる場所なんだよ」
「毎月、色々な建物を貸し切ってこの遊びを楽しんでいるんだ」
「有楽町のビックカメラでマイケル・ジャクソンに貸し切りで買い物させ、その様子を見て今何階にいるか夜通し賭けをしていたのも、我々だ」
 テレビのワイドショーでは決してやらない裏社会の事情が明かされると、母親の方がかなり驚いた様子で口を手で覆い首を振った。
「知らなかっただろ……さっさと帰れ!!」
 オールバックの金持ちが叫んでゲンコツを振りかざすと、殴られ慣れている親子は反射的にうずくまった。
 すると突然、その後ろから白いTシャツの男が腕組み姿で現れた。どうも、もともと驚かすつもりだったらしい。男は叫んだ。
「俺だ! 飾らない金持ちTシャツの仕掛け人だ!」
 なるほど、男が着ているTシャツの胸には小さく『飾らない金持ちTシャツ』と書いてあった。Tシャツとまで書いてある意味はよくわからなかったが、これぞ今、あと一息で金持ちになれるという人たちの間で爆発的に売れているという『飾らない金持ちTシャツ』である。
「話はぜんぶ聞かせてもらったぜ!」
 飾らない金持ちTシャツの男は、今まで地球上で出された全声の中でも、一番ちょうどいい声でなおも続けた。
「金持ちが寄り集まって、利権まみれのデカい建物の中で、本来とても心優しい動物であるゴリラをオモチャにし、金持ち同士でふざけた金を交換し合って、悦に浸る。まさに今の社会を象徴するクソったれぷり。見せつけてくれるぜ。今までの様子を1時間も見させてもらったが、俺は地獄で『志村どうぶつ園』がリメイクされたのかと思ったぜ!!!」
「な、なんだとー」「それは言いすぎだろー」「取り消せー」
 それまでは沈黙を保っていた金持ち達も、地獄で『志村どうぶつえん』がリメイクされたとまで言われたら黙ってなどいられない。しかし、飾らない金持ちTシャツの男は鼻を鳴らした。
「ふん。この親子は俺が招待したんだ。貴様らにお金で買えない心が一欠片でも残っているなら、こいつらにも賭けをさせてやりな!」
「絶対イヤだー」「貧乏人と賭けしたってなんにもおもしろくないよー」「お前とは遊ばないよー」
「お前ら……少年、読め!」
 その声に応えて少年はなぜかシャンデリアを見上げ、まぶしそうな顔を3秒間浮かべると、マントの中から黄ばんだ紙を取り出し、カサリコソリとそれを開いた。ガムテープで少年の素肌伝いに貼られていたピンマイクのスイッチが一気にオンに切り替わった。
「我が人生」
 タイトルが発表され、みんな『聴く体勢』になった。
「僕の父さんはレイプ魔です」
 ドッ。会場は笑いに包まれたが、少年は臆せず続けた。
「父さんがレイプして母さんがレイプされたその時、僕はすれ違うあえぎ声の狭間で母さんの股ぐらに着床しました。僕を身ごもったと知れた日、母さんはおじいちゃんの「喧嘩両成敗」の一声で家を追い出されました。みうらじゅんが好きこのんで現れるような田舎の町のこと、しかも土地では名の知れた家であったそうですから、誰もかばう人はいませんでした。母さんもあの夏、レイプされて土だらけで逆さまになったまま、カメラを首からぶら下げたみうらじゅんの姿を見たといいます。その後、母さんは県境の川の土手で早朝、馬と同じ時間帯に僕を生み、暗く湿った橋桁や公園のホームレス家屋の一角で、女手一つで育てました。頭のよかった母さんは、世界で初めてホームレス赤ペン先生をしてお金を稼いでくれました。母さんの書いた返事には土がついていて、何か人生について大切なことを教えている感じがしました。僕は、一度も学校に行ったことがありません。道ばたで拾った雑誌を教科書に母さんと勉強することで、いつかは『博士』や『大臣』や『幸せ』になれると信じていました。そのため僕は、小学三年生の頃には、コロコロコミックよりもびしょ濡れの週刊文春に詳しいアダルトチルドレンになっていました。やがて小学四年生になった僕に、初めて好きな女の子が出来ました。MEGUMIです。ダンボールとビニールシートの中で、電波と電気をジャックして見る写りの悪いテレビに、MEGUMIがちらほらと怪しくゆらめくたび、僕は母さんのことを忘れるということを知りました。そしてある日、MEGUMIとみうらじゅんがぶらぶらと町を歩いてやや偉そうなことを言う番組がテレ東で始まりました。僕はみうらじゅんに嫉妬しながらも、ともすれば嫌われることもあるMEGUMIの万能感を味わっていましたが、驚くべき事が起こりました。突然、後ろで仕事をしていた母が進研ゼミの答案の上に激しく嘔吐したのです。母の中に押さえ込まれていた記憶がみうらじゅんが公園を歩く姿によって蘇り、胃をしぼり、食道を蠕動させ、夕食抜きのむなしい胃液だけの吐瀉物を巻き散らせたのでした。もはや母さんよりカシコになっていた小学五年生の僕は、母さんのトラウマがみうらじゅんを見て雄叫びをあげているそのことにすぐ気がつきました。でも、僕はそのとき、母さんよりもMEGUMIの方が好きになっていました。ですから、毎週、母さんが激しく『赤ペン先生へのメッセージ』の上に吐いている音を聞きながら、みうらじゅんが町中の車止めのポールをポコチンに見立ててあれこれ喋り、MEGUMIが相づちを打つ映像を食い入るように見続けました。そして、母さんが「あの先生の返事には汚い汁がついている」とクレームをつけられ仕事を首になった日、MEGUMIは降谷建志と結婚しました。その知らせを同時に受けた途端、目の前のシートの青色がいやにはっきりと僕の暮らしを象り、押し込めていることに気づき、11年分の寒気に襲われました。僕はその日、自分がどれだけ不幸な身の上だったのかを、初めて理解したのです。僕には戸籍がなく、好きな女(MEGUMI)は芸能人に取られ、母はみうらじゅんが町をぶらついているところを見るたびに吐いてしまう。それは、この世のどこにも居場所が無いということです。なぜなら、戸籍が無ければ日の当たる場所では暮らせないし、世界の隅に行けば行くほどみうらじゅんは自費でやって来るし、好きな女の子は僕のものではないからです。僕は思いました。せめて、せめて金が欲しい」
 気づけば、金持ちたちのすすり泣きだけがあった。レイプ魔のくだりで歯を見せて笑っていた黒人警備システムの面々も、今は、いつの間にか暗くされた照明の闇に紛れて目を光らせていた。
 その様子を確認し、飾らない金持ちTシャツの男が車のハンドルを握ったパントマイムをしつつ振り返り、片目つぶりで親子に小声で叫んだ。
「今だ! 賭けろ!」
 子どもはうなずき、作文のトーンのまま言った。
「5階に、全財産の200円、賭けさせていただきます」
 間髪入れず、飾らない金持ちTシャツの男がハンドルを握ったままゆっくりと出てきて、横向きに言った。
「金持ちども、どうですか。この少年の心の叫び。ボロは着てても心は錦。錦は着てても心は錦。そんな分け隔て無い世の中で作られるテレビ番組を見たいとは思いませんか。俺は見たい。もうたくさんだ。だから俺、この親子とサシで勝負します! 全財産の半分を『カギがかかってる屋上』に賭けます! 屋上にゴリラがおらず、5階にゴリラが1匹目撃されれば、俺の全財産の半分は、この親子のものです!」
 男は、念書をサラサラ書いてヒラリと車外に投げる動きをして紙を放ると、またハンドルを握ってやや微妙に動かしつつ前へ進んで行き、そのままドアから出て行った。
 金持ちたちは、鼻をすすりすすり、
「こんな泣いたの『初恋の来た道』以来だよ」「百人いたら百人、幸せになって欲しいよ」「そんな世界でやる『リンカーン』は絶対おもしろいよな」「ワラライフって感じだよな~」「俺もサシで賭けるぞ!」
 とあの頃のピュアな気持ちを思い出して涙をボロボロ流しながら、同じく全財産の半分を次々と『カギがかかってる屋上』『ローストビーフ売り場のガラスケースの中』『早めに閉まる大きいサイズの紳士服売り場』『伊勢丹 松戸店』『ゴリラがゴリエに変わっている』『ゴリラがバブルスくんになっている』などの答えに、残念ながらややカブってしまったが賭け始めた。
 そして全員分のベット(総額200兆円)が確認されると、会場は真っ暗になった。すすり泣きの渦巻きにも動じない黒人警備システムの目が密かに浮かび上がるが、誰もそんなことは気にしていない。
 ぼんやりと巨大モニターに浮かび上がる映像。金持ちみんな、全財産の半分で購入した200兆円分の嵐のような感動を涙ながらに待ち受けている。とてもとても満たされた気分で、なんだか初監督作品みたいだ。
 だんだんもったいぶったエフェクトが取れていき、映像がはっきりしてきた。
 一瞬にして「5」という数字が確認できた。涙がこみ上げる。やはり5階、エレベーターの前だ。よかったな。200兆円だな。
 拍手が始まりかけたが、しかしおかしい。四つん這いになったゴリラの股ぐらに、何か黒いものがうごめいている。
「ゴリラが……」
「伊勢丹で出産!?」金持ちたちの連携が光る。
「Two gorillas are in the fifth floor. 」
「お前ら、2匹分払えよ!!」
 飾らない金持ちTシャツの男の肉声と同時に明かりが付くと、破り捨てられた「飾らない金持ちTシャツ」が頭上に突然現れたように大きな影をつくり、全員の視線を徐々に集めながらゆっくり落ちてきた。
 ファサリ。
 その場所に、今や世界一の金持ちになった乞食の親子が変わり果てた姿で仰向けに倒れていた。
 子どもの額には「全財産」とマジックで書かれたみずほ銀行のキャッシュカードが、母親の額には「ほとんど入ってねえ。小銭だからおろせねえ」と書かれたゆうちょのキャッシュカードがそれぞれ突き刺さっていた。
「死ンデル!」
 黒人警備システムは速やかに死亡を確認すると、男を追いかけて会場を飛び出した。
 なお、まだ誰も気づいていないが、少年の裸足の足の裏には「この世の金持ち、全員殺す」と書いてある。
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のりしろさんのクソ長くて読む前からテンションが落ちるけど、読んでしまうと面白くて三日後ぐらいにまた読みたくなる文章好きです。あとチキンフィレオ食べたい。

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