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トンネルG-SHOCK(D待ち女の子)

結婚報告をしに来た兄夫婦に会いたくないのでドトールに3時間こもって書きました。みんなもっとマンガや写真入りの記事が読みたいと思うので(僕もそうです)、申し訳ない気持ちはあります。


 高架に掘られた滅多に人が通らない暗いトンネルは、車が一台と人が一人やっと通れるぐらいの狭さで、電車が通るたびに何も聞こえなくなる。取ってつけたような段差で区切られた歩道には雨も降らないのに水がたまり、一つだけある赤い電灯の光を一日中ずっと鈍く反射させていた。
「屋根寄高広(やねよりたかひろ) あく手会場」
 朝、壁に白いチョークでそう書いた。その下に、捨ててあった机と椅子を持ってきた。もう夕方になっていた。
 昼は外よりもトンネルの方が暗いのに、今はトンネルの方が明るい。赤い光が、机の傷にはじかれて目に飛び込んでくる。高広はわざとそれをじっと見た。しばらくそうしておいて、
「目が、目が」
とかなんとか言いながらそろそろ帰ろうと思っている。今日もまたクソみたいな一日だった。
 電車が頭上を通る音でトンネルはいっぱいになり、なぜか少し安心して目を閉じる。すると目の前に緑の円が現れる。
「ねえ」
 驚いた。轟音の中だって透き通るその可憐な声。高広は顔を上げた。
 でも、肝心の顔は目に焼き付いた光の輪のせいで塗りつぶされていた。その輪を外そうと、中空に目をやると、視界の端に顔がのぞいたような気がする。でもまた見ようとすれば隠れてしまう。目の隙に入った格好でなんとなく女の子だとわかり、高広は下を向いた。いい匂いがした。
 トンネルを吹き抜ける風が急に涼しく感じられた。その風でスカートが揺らぐのがわかった。
「握手会場なんでしょ、握手してよ」
 ちょっとふざけたような声と同時に、つるつる赤く光る細い腕がすっと伸びてきた。黄色いG-SHOCKは細い手首には少しゆるくて、くるりと半分回転した。
 自分の前に差し出された、半端に開いて握り返すための柔い握力をたたえた掌を見て、高広はどぎまぎしてしまって、やや勃起しながら後ろの字を振り返った。見えないけれど、確かに「あく手会場」と書いた。汚い字で。
 向き直って、おそるおそる握手した。指を触れ、そっとにぎる。女の子の手は小さく、やわらかく、指はしなやかにのびている。
 微妙に手を動かすと、ふれ合った手指がやわらかくへこみあってぴったりくっつくのがわかった。細い手のどこにこんな弾力が……。
「イスにのぼって生卵を落としても割れないんじゃ……」
 思わず感想をもらしながらも、手と手は一つになって、伝え合ったあたたかな熱をさらにゆっくり増やしてゆく。脈が聞こえそうだ。
「どうにかなっちゃいそうだな……」
 高広は引っ込み思案のくせに孤独に慣れすぎて開き直っているようなところがあるので、中と薬の指を曲げて、相手の掌を触れるか触れないかの手つきで撫ぜ上げた。
「ん」
 第三楽章。ピアノを弾くように女の子の手が跳ね上がる。高広の指はその動きを本能的に追いかけて離さない。自覚のないあせりにも似た性欲がちょっと怖い。
 しかし女の子にもそういう興味はある。相手の指も遠慮がちにゆっくりと、同じように高広の掌へと滑り降りてきた。
 不意を打たれた高広は、心の奥のおそらくちんちんとつながっている部分にド級のときめきの群れ(GOOD・GREAT・PERFECT)を感じる。負けじと指をはわせる。
「んんっ……」
 女の子のそんな声を聞くのは初めてだったので、高広は凄い勃起した。
 それから二人はもう夢中になって少し大胆に息を荒げ、手と手を、指と指を互いにこすらせた。
 ふいに、電車の通る大きな音で目が覚めた。
 汗で濡れた手はしびれ、机の上には幾多の水滴が落ちていた。女の子のG-SHOCKは汗でびしょ濡れだったが、防水加工のおかげで時計は元気に18時30分を表示していた。15分は握手をしていただろうか。
 電車が通り過ぎてしんと静まりかえったトンネルは、幼い二人の息づかいだけで満たされていた。
 糸を引くように手が離れ、握手が終わった。
 思わず相手の顔を見上げると、もう光のあとは消えていた。でも顔はわからない。女の子はお面をつけていた。頬の白いなだらかなフォルムが赤く光っている。少しのぞいた額、細い髪の整った生え際にはうっすら汗がにじんでいる。
「君は……」
 思わず切らせていた息を止めて、高広は言った。
「これ、知ってる?」
 女の子は弾む吐息を隠すように大きく息を吸ってから、自分の顔を指さした。
「……ドナルド?」
「デイジーダック知らないの?」そこでまた息を吸う。「ドナルドの彼女」
 彼女。その言葉に高広は身をかたくした。
「そういえば聞いたこと、ある……」
 汗で湿った掌を自分の親指でなじませながら高広は言った。これは僕の汗だけではないはずだ……。
「もう帰る」
 勢いよくきびすを返した女の子のスカートが夜風の助けにひるがえり、机の上をかすめた。
 思わずそれを捕まえようと伸ばした高広の手は、机をたたいた。それだけの間にもう女の子は外の闇に消えていた。大きく鼻で息を吸うと、まだその香りが感じられる……。
「なんだろうこんな気持ちは……」
 高広は机についた手をじっと見て、じりじりと自分の方に寄せた。同時にゆっくり立ち上がり、目を閉じる。そのまま、机の上の滴を拾って薄く伸ばしながら手をちんちんに向かわせる。
 再びビリビリと電車の迫る音がし始めた。この電車には父が乗っているかも知れない……きっと乗っている……。音はどんどん大きくなる。もうこの体には何も聞こえない。
 そして、ついにびしょびしょの手がちんちんに到着した。高広はびっくりした。
「う、うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 かつてないほどの快感の塊、エクスタシーのおだんごがそこにいた。
 あせった高広はちんちんを一睨み、そこ目がけて振りかぶり、チョップを一発見舞った。
 塊は爆ぜ、どっと音がした。そして、さっきまでそこにいた女の子の空気を求めて何かが押し寄せてくる。
 電車は轟音とともに脳天の真上を駆け抜け始めた。
 高広は叫んだ。
「イクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
 イクの初めてなのに、そんな言葉知らないのに、高広は獣のようにそう叫んでいた。
 その声はトンネルいっぱいにかき消されながら響き渡り、快感を追いかけて勢いよく前に出た腰は机を派手にはじき飛ばしていた。
 せっかくそんな記念すべき時なのに、傲慢なスピードでやってきた白い乗用車がトンネルを抜けようとしたのだ。
 宙に放り出された高広の初めての衝動という名の古い机は、ピカピカ光った白い車のフロントガラスに脚から飛び込んだ。沈みこむようにガラスが割れて、コントロールを失った車は壁に激突、耳をつんざく音と火花を激しく噴き上げながらスピードを失わずに横転し、トンネルから苦しそうに勢いよく飛び出した。
 握手をした女の子の全てを思い出し身をよじらせながら、高広は呆けた顔でその一部始終を見ていた。
 車から灰色の煙が立ち上る頃には、もうしびれるような快感は収まっていた。
 ひっくり返っているが意外に原型をとどめた白い自動車の窓から、ひねり上げられて上を向き、口から血を流した知らない中年男の首が見える。さらにその隣からだらりと別の者の手が出ていた。
 その手。さっきの女の子のものとはぜんぜん違う、ふくれて丸い腕、太い指。下品に赤く塗られた爪から、さらに血が滴り落ちている。高広にはそれが母の手だとすぐにわかった。
「なんだ、今の…………」
 そう言って高広はズボンの上から、ぬめりで貼りつく冷たいちんちんに手をやった。母の日だった。

デイジーダック
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感動しました

短編にここまで主人公の感情の推移と独立した物語の始終をぶち込める能力は驚嘆の一言です。
下手な青春小説を置き去りにするリアリティとロマンチシズムを感じます。

何よりストーリーや含蓄の全てが笑いの基盤の上に成り立っているところに、作者が「文」と「笑」に人生を捧げてきた誠実さが見て取れます。

是非文章を書く活動を続けてください。あなたの心から飛び出す物語はすごく新鮮ですごく面白いです。

素晴らしい小説でした。
細かい描写からおおざっぱな風景まで、全てが素晴らしかったです。


私は今、のりしろさんの小説ブログを古いものから読んでいるのですが、個人的には5年前の小説よりも最近のものの方が好きです。
これからも楽しみにしております。

No title

描写とシニカルな笑いのセンスがとても良い。そして最後のカタルシス…。次回作期待してます!

No title

このデイジーダック異常にかわいくありませんか?

No title

おもしろい、おもしろいけどけつからに来る人は読む体力が多分無い。
偶然勢いで読めちゃった私含め
フォローしてね!
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